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現代思想入門 / 千葉雅也
¥990
SOLD OUT
読み終わった後、「哲学は生活を助けてくれる」と思った本です。 とにかく丁寧に書かれています。無学な、でも興味関心だけはある読者の僕を置いてけぼりにしない、細やかに気配りされた構成と語り口。内容を全部理解する必要はない、とハッキリ書かれてあるのも助かります。 この本は、哲学を学ぶために読むというよりは、「生きづらさを感じている」「ずっと悩んでいることがある」という人にこそ読んで頂きたいです。悩みへの答えが書かれているのではなく、悩みそれ自体との向き合い方や、自分自身に対する見方などを変えるヒントが見つかるはずです。少なくとも僕はそうでした。 哲学者たちは皆、「社会ってこうあるべきじゃない?」「人間ってこうあるべきなんじゃない?」という投げかけを人生を賭けて行ってきていて、その集積の上に僕たちは立っているのだと思います。 ですのでそれを享受するには、それ相応の技術や時間が求められます。そのためにあるのが本書だと感じました。 この本を通じて、哲学の世界への扉を開いた僕は、またさらに本屋さんに行くことが楽しくなったのでした。 …… 千葉 雅也 (チバ マサヤ) (著/文) 一九七八年、栃木県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は哲学・表象文化論。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。著書に『動きすぎてはいけない』(河出文庫、第四回紀伊國屋じんぶん大賞、第五回表象文化論学会賞)、『ツイッター哲学』(河出文庫)、『勉強の哲学』(文春文庫)、『思弁的実在論と現代について』(青土社)、『意味がない無意味』(河出書房新社)、『デッドライン』(新潮社、第四一回野間文芸新人賞)、『ライティングの哲学』(共著、星海社新書)、『オーバーヒート』(新潮社、「オーバーヒート」第一六五回芥川賞候補、「マジックミラー」第四五回川端康成文学賞)など。 …… 出版社:講談社 サイズ:新書判 248ページ 発行日:2022/03/20
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あしたから出版社 / 島田 潤一郎
¥968
SOLD OUT
ぼくは、別にお金がほしくて、出版社をはじめたわけではないのである(中略) ぼくは、ケンが死んで、叔父と叔母のこころを励ましたくて、さらにいえば、自分の人生が一回終わったような気持ちで、開き直って、この会社をはじめた。 だとすれば、たとえ全然売れなくても、自分にとって、意味のある本だけを出版すべきなのだ。 ぼくの人生は、きっと、ぼくが思っているよりずっと短いのだから、ぼくは自分が好きなやりたいことだけに全力を注ぐべきなのだ。 そんなの、当たり前じゃないか。 ー 本書 p95より ...... 【店主のひとこと】 「そんなの、当たり前じゃないか。」の部分に、そうだそうだと頷き返したくなるが、この当たり前に思えることを実際にやり通すまでには、ためらいや迷いもあったはずだと思う。 いざ現場に立ち、お金のことで頭を悩ませるようになり、心がキュウっと締め付けられる思いをしているうちに、「当たり前」だった初志が、さも難しいことのように感じられてくる。 不安から早く解放されたくて、「当たり前」だった志を、お金と引き換えそうになる機会は、僕にもあった。でも、その度に、「自分がいいと思えるようにやろう」と決断し、実際にそうしてきたからこそ、いま僕は、自分の仕事が嫌いにならずに済んでいるし、「やりたいことをやれている」と思えている。 僕が知識も経験もツテもない中、初めての商品である「ほめほめノート」を作ったときも、本書で島田さんがされているように、たくさんの店を回り、ヒントになるようなノートを探し回った。けれど、どれも違う気がした。 ある日、仕事のついでに立ち寄った下北沢の本屋で、一冊の本と出会った。棚から抜き、表紙を手に取った瞬間、雷に打たれたように体が反応し、「これだ」と分かった。 「この本のような佇まいを目指そう。まっすぐに、自分がいいと心から思えるものを作ろう。」 その本とは、夏葉社が手がけた『さよならのあとで』。今でも、手に取れば、初志を思い出させてくれる、お守りのような本として、仕事部屋の本棚に大事にしまってある。 …… 島田 潤一郎 1976年高知県生まれ、東京育ち。日本大学商学部会計学科卒業。大学卒業後、アルバイトや派遣社員をしながら小説家を目指していたが、方向転換。2009年9月に出版社・夏葉社を東京の吉祥寺で創業した。著書に『古くてあたらしい仕事』(新潮社)、『父と子の絆』(アルテスパブリッシング)、『90年代の若者たち』『本屋さんしか行きたいとこがない』(岬書店)がある。 …… 出版社:筑摩書房 サイズ:文庫判 336ページ 発行日:2022/06/13
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小さき者たちの / 松村圭一郎
¥1,980
文化人類学者の松村圭一郎さんが、故郷・熊本の、ふつうの人々が経験してきた歴史を掘り下げ、まとめた一冊です。 僕は本屋さんでこの本と出会い、冒頭の次の書き出しを読んで、すぐに買うことを決めました。 === これまでの事業の信用あればこそ、人さまが名を重うしてくるる。 我がふところは損をしても、事業の恥はぜったいに残しとらん。 人は一代名は末代、信用仕事じゃこれは (石牟礼道子『椿の海の樹』河出文庫 216ページ) ==== 明るく、希望の光のようなこの言葉は、その後に続く「水俣病」に関する、心を締めつけられるような記述を読み進める中で、松明のような、お守りのような役割を担っていると感じます。 小学校で習った「公害病」としての水俣病が、大人になった今、全く違う意味を含んでいることに、本書を通じて気づかされました。 そして、水俣病は決して終わった過去のものではなく、今も続いているのだということも。 この本は、決して、苦しく思いだけの本ではありません。 「人の尊厳とは何か」という問いに、真正面から人生をかけて応えようとしてきた人たちの、愛の記録でもあると思うのです。 …… 松村圭一郎(著) 1975年熊本生まれ。岡山大学文学部准教授。専門は文化人類学。所有と分配、海外出稼ぎ、市場と国家の関係などについて研究。著書に『うしろめたさの人類学』(第七二回毎日出版文化賞特別賞)、『くらしのアナキズム』(以上、ミシマ社)、『はみだしの人類学』(NHK出版)、『これからの大学』(春秋社)など、共編著に『文化人類学の思考法』(世界思想社)、『働くことの人類学』(黒鳥社)。 …… 出版社:ミシマ社 サイズ:四六変型判 縦178mm 横130mm 208ページ 並製 発行日:2023.1.20
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33の悩みと答えの深い森。ほぼ日「はたらきたい展。2」の本 / 奥野武範(ほぼ日刊イトイ新聞)
¥2,200
ほぼ日のコンテンツ、特にインタビュー形式のコンテンツは、自分のことに重ねながら読めるところがいいなあ、と昔から思っている。何かの答えをもらうというよりは、そこで繰り広げられている対話を聞きながら(実際は読みながらだけど)、同時並行で第3の世界が立ち上がってきて、その中で今の僕と、新しい僕との対話が始まったりする。そして、普段の生活の中で着込んでいた色んなものを脱ぎ捨てて、身軽で素直な自分になっていく。その素直な自分が、「ねえ、こうしてみない?」と投げかけ始める。あとはそれに従うだけだ。 この本は、はたらくことに関する33の質問に、33人の著名人たちが答えている本だ。 正直、ピンとこないものもあるし、たった数年前の本なのに、すでにズレを感じる内容もあったりはするけれど、思わず手帳にメモを残した言葉もあったりする。というか、それが普通のことなのかもしれない。世の中には様々な人がそれぞれの考え方で生きていて、はたらいているわけであって、そもそもこのような本を読んでいる僕もまた、数ある様々なうちの一つなのだから、全部に共感したりすることはあり得ない。 33通りの言葉の中から「あっ!」と思えるような、次の一歩へ背中を押してくれるような言葉が見つかる本だと思います。 …… 出版社:青幻舎 サイズ:A6判/ページ数 479p/高さ 16cm 発行日:2020/08/26
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章説-トキワ荘の青春 / 石ノ森 章太郎
¥880
「 ねェ、聞いてヨ、聞いてヨ!」 その日の真夜中。仕事を終わらせて眠っているボクを、赤塚が叩き起こした。(...) 構想が纏まったのだという。初の"大仕事"にやや興奮気味の赤塚は、眠い目をこすっているこちらにはお構いなしに、喋り続ける。(...) タイトルが決まった時、東の空はすでに薄く明るくなっていた(...) 雑誌『まんが王』が送られてきた。開けて、見て、赤塚とボクはぶったまげた。 穴埋めの、読み切りマンガだった筈の「ナマちゃん」は"連載マンガ"になっていた。最終ページにはちゃんと<つづく>と刷り込んである。(...) それにしても。本人には何の、事前の相談もなく"連載マンガ"にしてしまうなんて、びっくりするではありませんか。 マンガ時代の黎明期。マンガの描き手も作り手も、それに読み手ものんびりしていた。マンガは本来、この位の余裕を持って作り、読むべき媒体、と思わせるような”ちょっといい話”。 ー 本書 p218より …… 【店主のひとこと】 いまの世の中、のんびりすることが見直されている気がします。効率や生産性は、「こんなこと、やってみたいな」を許してくれません。 早くやること、一度にたくさんやること、「結果」を出すこと。この三拍子揃っていることが、いい社会人であり、「デキるやつ」の条件である。誰に言われたのかわからないけれど、いつの間にかそう思い込んで働いていたのが、会社員だった頃の僕。今にして思えば、僕は、自分とは真反対の性質に憧れ、それになろうとしていました。その結果、僕の頭には十円ハゲができたのでした。 この本に出てくるように、トキワ荘の住人たちが「のんびり」していたというのであれば、彼らが生み出した作品たちの素晴らしさが、「のんびり」の大切さを物語ってくれているのではないでしょうか。 のんびりっていうのは、効率とか生産性という言葉とは別の世界の話。僕の5歳の娘は、毎日お絵描きに夢中だし、すごいスピードであやとりをマスターしていきますが、効率とか生産性を意識しているようには全く見えません。マイペースで、よく道草をするし、だいたいご機嫌です。彼女を見ていると、もっとのんびり生きようと、たびたび思わされるのです。 …… 出版社:中央公論新社 サイズ:文庫 288ページ 発行日:2018/10/23
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あなたには夢がある 小さなアトリエから始まったスラム街の奇跡 / ビル・ストリックランド
¥1,760
ここは成功のためのセンターなんです。ここにやってくる人たちには、自分には成功するだけの価値があると思って欲しいのです。彼らの価値をはっきりさせるために、彼らが噴水のある場所にいるだけの価値があると私たちが思っていることを、彼らに知らせたいのです。 — 本書 p40 より ...... 【店主のひとこと】 人にプレゼントしたくなる本、というものがありますが、僕はこの本を家族にプレゼントしました。 こんなにも、「人」を信じている人がいる。人が持つ可能性を信じ、実際にそのことの尊さを証明している人がいる。そのことに、すごく感動します。 貧困地域に暮らす人々のために、アートセンターを立ち上げた著者。一流の家具や、絵画、絨毯、噴水に囲まれながら、職業訓練を受けることで、非行・貧困・人種差別などの問題をかかえる人々たちが、自らの才能を開花させていきます。問題なのは人ではなく、環境だという著者の哲学は一貫していて、人間がもつ可能性の大きさを繰り返し語っています。 特にいいと感じるのは、著者一人が奮闘しているのではなく、その理念にあらゆる人、企業が共感して巻き込まれていくところ。そして、できることがどんどん大きくなっていき、一人の夢が、みんなの夢になっていくところです。 この本は、タイトルが示すように、「私」ではなく「あなた」についての話なのです。 そういう意味で、『あなたには夢がある』という邦題は(原題は " Make the Impossible Possible")はとても素晴らしく、訳者の駒崎弘樹さんが「特定非営利活動法人 フローレンス」の代表であることも含めて、素敵な本だと思います。 ちなみに著者のTED講演も、おすすめです。ジャズピアニストのハービー・ハンコックのピアノにのせて詩を朗読するような、美しい語りです。 ビル・ストリックランド: 不可能を可能に:美と希望のスラム再生 | TED Talk https://www.ted.com/talks/bill_strickland_rebuilding_a_neighborhood_with_beauty_dignity_hope?language=ja&subtitle=jaYoutube …… 出版社:英治出版 サイズ:四六判・ハードカバー 195×135mm 318p 発行日:2008/12/03
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インターネット的 (PHP文庫) / 糸井 重里
¥792
「もうつながっている人」よりも、「まだつながっていない人」たちにこそ伝えなければならないし、逆にそっちに伝えなければつまらないと、感じていたのです。つながっていない人に、もっと伝えたい。つながっていない人から、もっと受け取りたい。 — 本書 p21 より ...... 【店主のひとこと】 僕が、インターネットにのめり込んでいったのは、2009年ごろ。糸井重里さんが主催する「ほぼ日刊イトイ新聞」を見つけて以降でした。 僕は大学を出たばかり。就活戦線から逃げ出し、フリーターになって、「自分にとって大事なことはなんだろう」という、今にして思えばすごく抽象的すぎる、悩みとも言えない悩みを抱え、日々を悶々と過ごしていたあの頃。新宿の家電量販店で買ってきたiMacで、たくさんの「ほぼ日」の記事を読み漁りました。 白金のお蕎麦やさんの記事。メジャーリーガー田口壮さんの記事。任天堂の岩田さんの記事。タモリさんの記事。そして『はたらきたい。』という本のこと。 今でも僕のiMacの中には、「ほぼ日」というブックマークフォルダがあって、自信がなくなってしまったとき、これからのことがわからなくなってしまったときは、「ほぼ日」の記事たちを読みます。 右や左に振れまくってしまった自分の気持ちの、真ん中がどこなのか、ふっと思い出させてくれます。だから僕は、インターネットっていいな、と今も思っています。 ...... 出版社:PHP研究所 サイズ:文庫 269p 発行日:2014/11/6
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アンビエント・ドライヴァー / 細野 晴臣
¥858
SOLD OUT
いまの僕には鼻歌が魅力的に聞こえる。大声で歌い上げ、大勢の人に聞かせるのではなく、目の前にいる人に聞こえる位くらいの声で歌うのはなかなかいい。 — 本書 p124 より ...... 【店主のひとこと】 ...... いい音楽家は、いい文章を書く人が多いなと思っています。細野晴臣さんは、まさにその一人です。細野さんのお話はいつも肩の力が抜けていて、真面目な話でもシリアスすぎない。それは、細野さんの音楽からも感じます。 僕はどちらかというと、細野さんの音楽よりも先に、文章から入っていった方で、細野さんの話はとても面白く読めるけど、音楽については頑張って分かろうとしていたところがありました。 大学生の頃、バイトをしていた新宿のツタヤで、細野さんのソロ作品をデビュー作から順番に借りて、とにかくわかるまで聴いてみようとしたことがありました。 細野さんはたくさんリリースしていて、時期によって作風がずいぶん変わるのですが、順に聴いていく中で、一番いいなと思えたのが、いわゆる「アンビエント期」にあたるものでした。 YMOが大ヒットして有名人になってしまった細野さんが、心身ともに疲弊した頃によく聴いていたというブライアン・イーノからの影響を受けた時期の音楽たち。なんだかとても自由というか、細野さんもこういう気持ちになるだなと思うと、気持ちが安らぎました。 この本を読んでいると、その時と同じように、気が安らいで、焦りが消えていく。僕にとって、そういう本です。 ...... 細野晴臣(ほその・はるおみ) 1947年東京生まれ。音楽家。1969年「エイプリル・フール」でデビュー。1970年「はっぴいえんど」結成。73年ソロ活動を開始、同時に「ティン・パン・アレー」としても活動。78年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成、歌謡界での楽曲提供を手掛けプロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント、エレクトロニカを探求、作曲・プロデュース・映画音楽など多岐にわたり活動。 …… 出版社:筑摩書房 サイズ:文庫 296p 発行日:2016/02/09
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ねぼけ人生 新装版 / 水木 しげる
¥638
僕は、よく食べよく寝る子供だったから、ゆっくり朝寝坊した上、ゆっくり朝飯を食ってから学校へ行く。それで、一時間目の算数は、0点ばかりちょうだいした。 — 本書 p37 より ...... 【店主のひとこと】 水木先生は、持ち前のひょうひょうさで、いつのときも、たくましく、自分らしい人生を送って来られたようです。戦争であっても、貧乏であっても、苦難のなかに、たのしみを見出す天才なのです。そんな水木先生に、ぼくは憧れています。 ...... 水木 しげる 1922〜2015年。漫画家。「テレビくん」で講談社児童まんが賞、「昭和史」で講談社漫画賞一般部門を受賞。紫綬褒章、旭日小綬章受章。文化功労者 …… 出版社:筑摩書房 サイズ:文庫 254p 発行日:1999/7/22
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ほんまにオレはアホやろか / 水木 しげる
¥704
最前列でハナクソをほじりながら講義を聞いていると、金原省吾という先生が、 「右手で筆記して、左手でほじくったらどう」 と、教壇から忠告。 「僕は、左手はありませんから」 と、いうと、 「失礼」 先生はすまなそうにしたが、考えてみれば、「失礼」なのはぼくの方かもしれない。 — 本書 p133 より ...... 【店主のひとこと】 ...... この本を読めば、水木しげるの豪快さに、あなたは度肝を抜かれることと思います。 僕が同じ立場だったら、萎縮してしまってとてもできないだろうことでも、平気でやってのけてしまう。そのあまりの図太さは、笑ってしまうし、感心してしまうし、憧れてすらしまいます。周りにいる人たちは大変でしょうけれども、本人は、自分に素直に生きているだけなんだと思います。 こんな彼の人となりもあってか、この時代の漫画家にしては、かなり長生きされています。どんなに忙しくても、しっかり睡眠をとっていたそうですし、つくづく、自分を大切に生きた方だなと思います。 僕は、何かごちゃごちゃ考えてしまって苦しくなった時は、水木しげるの本を読むと、すっと素直になれるんです。 ...... 水木 しげる 1922〜2015年。漫画家。「テレビくん」で講談社児童まんが賞、「昭和史」で講談社漫画賞一般部門を受賞。紫綬褒章、旭日小綬章受章。文化功労者。 …… 出版社:講談社 サイズ:文庫 256p 発行日:2016/04/15
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人生をいじくり回してはいけない / 水木 しげる
¥748
SOLD OUT
望遠鏡で敵を探していた。敵が来ないからオウムを見ていた。(中略) 面白くてジーっと見ていたら、後ろでパラパラパラと掃射銃の音がして、振り向いたらもう全滅だった。 — 本書 p211 より ...... 【店主のひとこと】 ...... たとえ戦時中といえど、徹底してマイペースを崩さないのが、水木しげる。 思わず笑ってしまうエピソードがありつつも、「生きて帰る」と決めて出征し、どんな窮地でも「もう駄目だ」とは決して思わず、本当に無事生きて帰った水木さんだからこそ語れる、生きることについての本。 ...... 水木 しげる 1922〜2015年。漫画家。「テレビくん」で講談社児童まんが賞、「昭和史」で講談社漫画賞一般部門を受賞。紫綬褒章、旭日小綬章受章。文化功労者 …… 出版社:筑摩書房 サイズ:文庫 240p 発行日:2015/02/09
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水木サンの幸福論 / 水木 しげる
¥660
私はぼんやりした、不真面目な兵隊だった。 緊張でピリピリしている同年兵の中では、どうしても態度がでかく見られる。 風呂で将校と間違えられ、古年兵に背中を流してもらったことがある。まもなく新参の二等兵とばれて、張り倒された。 — 本書 p79より ...... 【店主のひとこと】 ...... 戦時中の過酷な話のはずなのに、クスッと笑えてしまうのは、水木サンが、やもすると「とても考えられないような」態度をとっているからなのですが、その態度は、ひたすらに自分に正直であることの表れも言えます。 自分に素直でいること。自分を大切にすること。 それは、戦時中、最も難しい姿勢であったのではないでしょうか。 どんな状況に置かれていても、その姿勢を貫く強さが、水木しげるの言う「幸福論」の根底に流れているように思えます。 笑えるのに、切なくて、憤りを感じて、悲しくもある。喜怒哀楽が、ないまぜに詰まったこの本は、どこか「男はつらいよ」を観終わった後と、同じもの感じます。 ...... 水木 しげる 1922〜2015年。漫画家。「テレビくん」で講談社児童まんが賞、「昭和史」で講談社漫画賞一般部門を受賞。紫綬褒章、旭日小綬章受章。文化功労者。 …… 出版社:KADOKAWA サイズ:文庫 265p 発行日:2007/04/25
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恋と退屈 / 峯田 和伸
¥990
「峯田くんは将来何になりたい?」僕は少し困っちゃったけど、彼女に嘘はつけないと思ってちゃんと答えたよ。バンドをやりたい、って。歌をずっと歌っていきたい、って。綾子ちゃんは笑ってくれた。そして「きっと峯田くんだったら、何とかなるんじゃないかな」って言った。 — 本書より ...... 【店主のひとこと】 銀杏BOYZの峯田さんが、結成直後から書いていたブログ記事をまとめた本です。 大学生だった僕は、ガラケーでリアルタイムでこのブログを読んでいました。ファーストアルバムが出来上がっていく様子や、彼が好きな音楽や映画の話が楽しみでしょうがなかったのをよく覚えています。 僕は、普段の人付き合いをしている自分とは違う、また別の自分を、音楽や本の中に住まわせていて、特に10代〜20代は、よく音楽の中に逃げ込んでいました。 峯田さんがブログを更新するたびに、毎回すごい量のコメントがついていて、それを読む限り、僕と同じような人たちの溜まり場になっていた気がします。 大学では部活動に励んでいた僕は、あまりプライベートな時間を持つことができなかったので、一人になるとよくイヤホンをして銀杏BOYZを聴いていました。僕にとっては息抜きというか、自分という人間のバランスをとるための時間でした。「こういう俺も忘れないでね」という内側にいる、普段は隠しているもう一人の自分を、守ろうとしていたんだと思います。 同じ頃、もう一つだけ楽しみにしているブログがありました。自分と同い歳くらいの男の子が書いてると思われる音楽ブログ。確かThe Get Up Kids繋がりでたどり着いたブログで、90~00'sのエモを中心に書かれていて、Cap'n Jazzとか、bluebeardなんかも、このブログで知りました。どこの誰だかわからないけれど、すごく暗くて、でも音楽が好きなのがよくわかって、勝手に「同類」だと思って読んでいました。 その後、僕は卒部して、初めてバンドを組むことになったのと同時に、いつの間にか読まなくなってしまったあのブログ。彼は今どうしてるんだろうか。この本を読むと、あのブログのことを一緒に思い出します。 ...... 出版社:河出書房新社 サイズ:文庫 496ページ 発行日:2010/01/30
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自分の仕事をつくる / 西村 佳哲
¥836
その人が持っているもの、ちょっとした光っている部分に気づいて、ポッと焦点の合った仕事を与えると、人は必ず成長する。与えることが大事なんです。 — 本書より、ドラフト・宮田識さんのことば ...... 【店主のひとこと】 20代前半、東京で一人暮らしをしていた僕は、とにかく働きたくなかった。というより、会社の中で、働くイメージが持てないでいました。 大学4年生になり、就職活動をしてはみたものの、志望動機が全く書けませんでした。「良さそうだから」という理由以外、応募する動機なんてなくて、だって僕はまだその会社で働いてもいないし、見学すらしたことがないし、中の人に会ったこともないのに、そんなにたくさん志望理由なんて書けないよ、と本気で思っていました。 残念なことに、周りには楽しそうに、熱を持って働いている人はいませんでした。結局、就活は途中でやめてしまい、「働く」ことに納得がいくまでは、しばらくフリーターでいることにしました。 そんな頃、当時毎日のように入り浸っていたブックオフで出会ったこの本の中に、その答えと思えるような、宮田さんの言葉を見つけました。「こんな生き方をしている人がいるんだ」と嬉しくなったのを覚えています。 それから十年たち、宮田さんと一緒にお仕事をする機会がありました。本には、そういう力があるんです。 ...... 西村 佳哲 1964年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。プランニング・ディレクター。神山つなぐ公社理事。働き方研究家。著書に「かかわり方のまなび方」など。 …… 出版社:筑摩書房 サイズ:文庫 331ページ 発行日:2011/06/08
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増補 本屋になりたい この島の本を売る / 宇田 智子
¥836
無事に落札できたものの、沖縄に帰ってから調べると、私の落札価格とほぼ同じ値段で売っている業者もいて、高く買いすぎたかもしれないと不安になりました。(中略) 3ヶ月ほど経ったある日。最初のお客さんがすっと店に入り、すっと本を取り出して、 「この本はこの値段ですか?」と値札を指さしました。(中略) 高かったので、目を疑ったのでしょう。お客さんは頷いて、本を持ったまま棚に戻りました。いいんです、売れなくても私の本にしますから。勝手にいじけていたら、しばらくして、 「これ、ください」と本を差しだされました。今度はこちらが目を疑いました。本当に買うんですか、この本を? 思ったよりずっと早く、価値をわかってくれる人が現れました。仕入れて値段をつけた私まで認めてもらえたようで嬉しく、一方では手放してしまうさびしさも感じました。 — 本書p50より ...... 【店主のひとこと】 ...... 初めてこの本を読んだのは、下北沢の喫茶店「いーはとーぼ」の本棚だった。当時、フリーターをしていた僕は、悶々としていた。 自分は何かやりたいことがあるはずなんだけれど、それが一体なんなのかがわからない。ただ、今の生活がやりたいことではない、ということだけわかっている。「僕はこれをやっているんです」と人に胸を張って言える何かが欲しかった。 そんな僕は、この本を読みながら、著者が少しずつ歩みを進めるその姿に、憧れと嫉妬が入り混じった気持ちを持った。ただ、それと同時に「僕にも何かができるかもしれない。」という励ましももらった気がした。 あれから10年以上経ち、僕の家には、たくさんの本がやってきて、たくさんの本が去っていったが、この本だけはずっと棚に残っている。 頻繁に読み返すわけではないけれど、「好きなようにやっていいんだよ」と見守ってくれている。 …… 宇田智子(うだ・ともこ) 1980年神奈川県生まれ。2002年にジュンク堂書店に入社、人文書担当。2009年、那覇店開店に伴い異動。2011年7月に退職し、同年11月11日、那覇市の第一牧志公設市場の向かいに「市場の古本屋ウララ」を開店する。著書に『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』(ボーダーインク)、『市場のことば、本の声』(晶文社)ほか。2014年、第7回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。 …… 出版社:筑摩書房 サイズ:文庫 256ページ 発行日:2022/07/07
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i(アイ) / 西 加奈子
¥748
その気持ちは恥なくていいよ。恥じる必要なんてない。(中略) 恥ずかしがりながらずっと胸を痛めていればいいんじゃないかな。 よくわからないけど、その気持ちは大切だと思うんだ。何かにつながる気持ちだと思うから。 — 本書より …… 【店主のひとこと】 …… 私にとって「私」とは何なのだろう。 社会のなかに「私」を見つけたい気持ちと、「私」のなかに社会を見出そうとする気持ち。 その間を行ったりきたり。 「私」という存在を認めるために、社会の中に飛び込んでみたり、また逆に社会とのつながりを断ち切ろうとしてみたりする。 どうすれば私は、「私」にたどり着けるのだろう。 こんな問いに対する1つの答えが、主人公・アイが自身と邂逅するまでの軌跡を通して、見出せる気がしました。 激しい感情表現と、愛に満ち溢れた言葉たちに揺さぶられ、付箋で埋め尽くされてしまった一冊。 …… 出版社:ポプラ社 サイズ:文庫版 323ページ 発行年月:2019/11/6