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章説-トキワ荘の青春 / 石ノ森 章太郎

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「 ねェ、聞いてヨ、聞いてヨ!」
その日の真夜中。仕事を終わらせて眠っているボクを、赤塚が叩き起こした。(...)
構想が纏まったのだという。初の"大仕事"にやや興奮気味の赤塚は、眠い目をこすっているこちらにはお構いなしに、喋り続ける。(...)
タイトルが決まった時、東の空はすでに薄く明るくなっていた(...)
雑誌『まんが王』が送られてきた。開けて、見て、赤塚とボクはぶったまげた。 穴埋めの、読み切りマンガだった筈の「ナマちゃん」は"連載マンガ"になっていた。最終ページにはちゃんと<つづく>と刷り込んである。(...)
それにしても。本人には何の、事前の相談もなく"連載マンガ"にしてしまうなんて、びっくりするではありませんか。
マンガ時代の黎明期。マンガの描き手も作り手も、それに読み手ものんびりしていた。マンガは本来、この位の余裕を持って作り、読むべき媒体、と思わせるような”ちょっといい話”。

ー 本書 p218より

……

【店主のひとこと】

いまの世の中、のんびりすることが見直されている気がします。効率や生産性は、「こんなこと、やってみたいな」を許してくれません。
早くやること、一度にたくさんやること、「結果」を出すこと。この三拍子揃っていることが、いい社会人であり、「デキるやつ」の条件である。誰に言われたのかわからないけれど、いつの間にかそう思い込んで働いていたのが、会社員だった頃の僕。今にして思えば、僕は、自分とは真反対の性質に憧れ、それになろうとしていました。その結果、僕の頭には十円ハゲができたのでした。

この本に出てくるように、トキワ荘の住人たちが「のんびり」していたというのであれば、彼らが生み出した作品たちの素晴らしさが、「のんびり」の大切さを物語ってくれているのではないでしょうか。
のんびりっていうのは、効率とか生産性という言葉とは別の世界の話。僕の5歳の娘は、毎日お絵描きに夢中だし、すごいスピードであやとりをマスターしていきますが、効率とか生産性を意識しているようには全く見えません。マイペースで、よく道草をするし、だいたいご機嫌です。彼女を見ていると、もっとのんびり生きようと、たびたび思わされるのです。

……

出版社:中央公論新社
サイズ:文庫 288ページ
発行日:2018/10/23

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