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増補 本屋になりたい この島の本を売る / 宇田 智子

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無事に落札できたものの、沖縄に帰ってから調べると、私の落札価格とほぼ同じ値段で売っている業者もいて、高く買いすぎたかもしれないと不安になりました。(中略)

3ヶ月ほど経ったある日。最初のお客さんがすっと店に入り、すっと本を取り出して、
「この本はこの値段ですか?」と値札を指さしました。(中略)

高かったので、目を疑ったのでしょう。お客さんは頷いて、本を持ったまま棚に戻りました。いいんです、売れなくても私の本にしますから。勝手にいじけていたら、しばらくして、
「これ、ください」と本を差しだされました。今度はこちらが目を疑いました。本当に買うんですか、この本を?
思ったよりずっと早く、価値をわかってくれる人が現れました。仕入れて値段をつけた私まで認めてもらえたようで嬉しく、一方では手放してしまうさびしさも感じました。

— 本書p50より

......

【店主のひとこと】

......

初めてこの本を読んだのは、下北沢の喫茶店「いーはとーぼ」の本棚だった。当時、フリーターをしていた僕は、悶々としていた。

自分は何かやりたいことがあるはずなんだけれど、それが一体なんなのかがわからない。ただ、今の生活がやりたいことではない、ということだけわかっている。「僕はこれをやっているんです」と人に胸を張って言える何かが欲しかった。

そんな僕は、この本を読みながら、著者が少しずつ歩みを進めるその姿に、憧れと嫉妬が入り混じった気持ちを持った。ただ、それと同時に「僕にも何かができるかもしれない。」という励ましももらった気がした。

あれから10年以上経ち、僕の家には、たくさんの本がやってきて、たくさんの本が去っていったが、この本だけはずっと棚に残っている。
頻繁に読み返すわけではないけれど、「好きなようにやっていいんだよ」と見守ってくれている。

……

宇田智子(うだ・ともこ)
1980年神奈川県生まれ。2002年にジュンク堂書店に入社、人文書担当。2009年、那覇店開店に伴い異動。2011年7月に退職し、同年11月11日、那覇市の第一牧志公設市場の向かいに「市場の古本屋ウララ」を開店する。著書に『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』(ボーダーインク)、『市場のことば、本の声』(晶文社)ほか。2014年、第7回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。

……

出版社:筑摩書房
サイズ:文庫 256ページ
発行日:2022/07/07

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